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運命の書庫―3―

三話目  シグザールと名乗った青年は腰近くまで長く伸ばした銀の髪にアメジストの瞳が印象的だった。
此方の視線に気づいたのか穏やかな物腰でにっこりとほほ笑む。その見た目はとても穏やかな様子に一瞬は安心したニヒツだったが、直ぐに穏やかな表情の奥にある得体の知れない“何か”を感じ取り僅かに後ずさった。

「少年。何故君は神を否定なさるのですか?神が創る未来は万人にとって幸せをもたらすものなのですよ。竜のことも、彼らが人間に虐げられていることも運命を紡ぐための一部なのです。謂わば重要なパーツの一つだ。」
「それは違う!予め決められた人生を生きるだけが幸せだなんて誰が決めたんだ!確かに決められた人生を生きることが楽だと思うときもあるかもしれない。でも…それ以上に人間は自分自身で自分の良いように未来を切り開いていくことに生きる楽しみや、幸せを感じるんじゃないのか?それに…誰かの幸せの為に誰かが犠牲になるのだっておかしいじゃないか!」
「…本当にそうでしょうか?」
 ニヒツの言葉に何処か理解できないと云った風に不思議そうに首を傾げる代行者に更に言葉を続ける。
「ファートゥムだって…過去に大きな罪を犯したかもしれない…でもそれだけでこの寂しい空間にたった一人にするのは可哀そうだ!」
「ニヒツ…。」
「成程。貴方の言い分は納得します。しかし…彼の者は神が紡いだ運命を決定的に覆す存在を創ってしまった。同じ結末を起こさない為に仕方ないのですよ。」
「それは償いになるのか?何度も何度も同じ過ちをするほど人間は愚かじゃない!やり直す事だって出来る!ファートゥムだって自分の過ちを後悔してきっと次はそんなことしない!」
 出会ってからまださほど時間が経ってはいないが、ニヒツにはただ一つだけはしっかりと解っていた。彼女は何度も愚かな行為を重ねる程愚かではないと。
「…本当にそうだったら…何度もこんな繰返しをする必要はないんだけれどね…。」
代行者はそうポツリと呟く。その言葉の真意がわからないニヒツはただ訝しげな表情を浮かべた。代行者はその様子に一人小さく笑い、なんでもないと口にし、そうだ。と更に言葉を続けた。
「ならば、少年。私と一つ賭けをしませんか?」
「賭け?」
「少年…貴方が云う通り真に人間が己の力のみで人生を切り開き、真実の幸せを勝ち取ることが出来れば…人間と竜が真の意味で共存共栄出来る世界が来たら…少年の勝ち…。彼の罪人を解放し、私の発言を撤回しましょう。
しかし…再び人々が愚かな過ちを犯し世界を傾けるような事が起きれば…。神は世界を壊し、リセットする。そして…その時は君に管理人以上の罰を与える事にしましょう。」
 悪い話ではないでしょう?と代行者は柔らかな笑顔を見せる。その笑顔には何処か引っかかるものが有ったが、ニヒツは勢いで了承を口に出そうとした。
しかしその刹那、ありえぬ!とファートゥムが声を張り上げる。
「代行者!貴様がそのような事を勝手に決めて良いものか!そのようなコト、神が許すわけが有るまい!」
「赦しますとも。私は代行者…私の意思は神の意思そのものですよ、管理人?」
 そう再びにっこりと笑みを浮かべて云う男にファートゥムは小さく舌打ちをする。
 ファートゥムには解っていた。この賭けは恐らく成立しないと云う事が。
今までこの閉鎖された世界で何度も外の世界で自らに敷かれたレールから外れ、真なる幸せを手にしようとする人間を…人と竜が共に手を取ろうとしているのを見て来た。しかしその度に彼らは失敗に終わっていた。…誰一人奇跡を起こす事は出来なかったのだ。それに代行者が賭けを自ら言いだした事も何処か引っかかるものがあった。これには何か裏が有るのでは…と。その真意が解らないうちは無暗に話を進めたくはなかった。しかしそんなファートゥムの意思とは別に話は進んでしまうのだった。
「…いいよ。その賭け、乗る。」
「ニヒツ!やめるのだ!」
 慌てて制止を掛けるファートゥム。しかしニヒツはそんな彼女に振り向きもせず、ただ小さく首を振る。
「…いいんだ。俺は、決めたから。大丈夫だよ。絶対にあんたを此処から出してあげるから。」
「契約成立ですね。さぁ、少年!私に貴方が云う運命に縛られない人間の姿を見せてください!」
 代行者は嬉しそうに笑い天を仰ぐ。そして高らかな声が書架の中に響き渡ると突如今まで真っ白な壁でしかなかった場所へ大きな扉が現れ、それがギギ…と大きな音を立てて開いた。

扉の先に広がっていたのは暗闇。するとそこから急にゴオッと大きな音を立て風が吹き込み、ニヒツの体を捉えた。
「!」
 まるで何か生き物のように体に絡みついた風はそのまま一気にニヒツを扉の先へと引きずり込みだした。ニヒツはどうにかしてその風に抗ってみようとするが、風の力は強くどんどんと扉への距離を縮めた。このまま一気にあの扉の先へ連れて行かれるのか。そうニヒツが諦めかけたその時…
「ニヒツ!」
 突然ニヒツの体を誰かが引っ張った。
ファートゥムだ。
ファートゥムは引きずり込まれそうになるニヒツの体を必死に掴んだ。しかしそんな力など僅かなものにすぎなかった。気づけばファートゥムも一緒になって引っ張られている事に気づいたニヒツは慌ててその手を離そうとする。
「ファートゥム!大丈夫だから!俺…またここにちゃんと帰ってくるから!代行者の賭けなんかに負けないから…。ほんの少しだけ待っててくれ!」
「ニヒツ…。」
 絶対に負けない。そう重ねて呟くニヒツの顔を見てファートゥムも覚悟を決めたように零れていた涙を拭い、その手をそっと離した。
「ならば…お前が帰ってくるその時まで私はここで待っている。絶対に帰ってくるのだぞ!」
「勿論だ!」
そうニヒツが笑みを見せると、そのまま一気にニヒツは扉の先へと吸い込まれてしまった。
 残されたファートゥムは彼を吸い込んだ扉の方を暫くジッとみつめていた。



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竜と魔法の世界をつらつらとやっております。

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