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運命の書庫―2―

二話目 「落ちついたか?」
「あ、あぁ…。」
 何処からか出された茶器になみなみと琥珀色の紅茶が注がれる。ニヒツはそれを熱さに気をつけながら思いきり飲み干す。茶器の中身を全て胃に押し込むと、やっと落ち着いてきたのか一つ小さく息を漏らす。
「…人間と竜は共存出来ていない…んだよな。」
「…あぁ。竜は世界にとって偉大な存在だ。だが…実際には人間の都合によって虐げられている事もある。」
「…。」
 正直な話、ニヒツはその事実を信じたく無かった。確かに今まで生きてきてニヒツ自身も竜というものに出会った事は無かった。しかし、どこかに居る竜は当然教えられたとおり人間と幸せに共存しているのだと思っていた。

 しかし実際は…。

「…あーもうっ!」
 どうしていいか解らない!とニヒツは思いきり頭をガシガシと掻く。ふと、顔を上げた時ニヒツは気になった事を口にする。
「そういえばさ。此処には世界の真実だけが収められてるの?此処に入った時にも思ったけど随分と蔵書が多くない?」
 そう云いぐるりと周囲を見渡す。見渡す限り対面の壁は見えずひたすら続く本棚。数えきれない程の書物にただ驚くしかなかった。
 ファートゥムは一瞬目を瞬かせるとふむ…と口を開く。
「ここは、世界に起きている事象全てを記録した書庫。過去から現在、先は未来までの全ての歴史と人間の人生が収められているのだ。」
「歴史と、人間の人生?」
人生とはどういう事だろう?ニヒツはその言葉の意味を汲み取れず小さく首を傾げる。
「言葉の儘よ。ここに収められているは人間の人生を一冊の本にしたもの。」
「…まてよ、良く分からない。」
「解らないのも無理はあるまいよ。お前たちは何も知らない。教えてやろう…。お前たちが日毎自分自身できり開いている人生と云うものは、予め決められたものなのだよ。創造主と云う名の絶対神によってな。」
「そんな…。それじゃ、俺たちはただただ決まったレールの上を歩いているだけってことなのか?」
「左様。」
「そんなの、信じられるわけがない!」
 
否、信じたくも無かった。
 今まで生きて来た人生。色々な事を自分で選択し自分の意思で切り開いてきたと思っていた。それがまさか…予め決まったものだったなんて。
「それが確かなら…戦争が起きたのも、それで沢山の人間が死んだことも…竜が虐げられるのも全部がその神様ってのが決めたものだっていうのか?」
 人や竜が死ぬ事が、血が流れることが人間が幸せに生きるために必要?
「そんなの可笑しい。間違ってる!」
「私だってそんなのは間違っていると解っている!しかしそれは真実なのだ。それを覆す事は大罪なのだ。私が良い例なのだよ。」
「え…?」
「私も嘗ては人の世の人間だったのだよ。しかし私がとある事で未来を覆す事象を創ってしまった。それは神からすればそれは大罪以上の何物でもなかったらしい。私は地上での人生を終えたのちに、この異空間の護人として神に転身させられた。まぁ、護人と云えば聞こえがいいが…此処に居る以上転生も出来ない…。それに今回はたまたまお前が入ってきたが、本来この場所には誰ひとり入れない。つまりは孤独の空間の中で一人ただ漫然と生きることを神は私に命じたのだ。」
「そんなの、酷いじゃないか。」
 たった一度のミスで永遠に誰とも接する事のない世界へ放り出されるなんて。そんな事ニヒツには到底耐えられることでは無かった。
「それに、人間があらかじめ決められた人生を生きる?それが幸せ?そんなのは間違ってるじゃないか!」


「本当にそう思っているのですか?」

「!」
 突如二人の背後から声が掛かる。二人しかいない筈の空間に響くその声に二人は恐る恐る振り返る。するとそこには何時の間にか一人の青年が立っていた。ニヒツは訳が解らないと首を傾げるが、ファートゥムはその姿を見るや僅かに体を震わせ静かに言葉を紡ぐ。
「お前は…代行者。」
「代行者?」
「…あぁ。ご紹介が遅れました。私は代行者・シグザールと申します。」



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Author:海和さい
竜と魔法の世界をつらつらとやっております。

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