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運命の書庫―1―

創作サークル会報に投稿したものに加筆修正 「…ここ、何処だ?」
少年は困り果てていた。何時の間にか…大きな書架に迷い込んでしまったらしい。



運命の書架 ― Ⅰ・運命の遭遇―
             


 本当に“いつの間にか”なのだ。
確か今まで何時の様に学校を終えて自宅までの夕暮れ道をぼんやりと歩いていた筈だった…。
市街地にある学校を出て街から少し離れた家へ…。その道は本当に何もない野の一本道で、近くに建物の一つも無かった筈。

…しかし…今此処は図書館か何かなのだろうか?
見たこともない装丁をされた膨大な書物がずらりと整列した本棚の一角に立っていた。きょろきょろと周囲を見渡すがどこもかしこも気味が悪い位にキチンと整理の行き届いた書架が先が見えぬほどにずっと先まで並ぶばかり。
全くもって此処が何処だか見当がつかずに暫くうろうろと歩いていると、幾つかの事に気付いた。
全く以て人の気配がしないのだ。それに、音と云う音一つしないのだ。いくら図書館とはいえ、こんなに静かだろうか…?
天井に窓らしきものが見えている筈なのに、そこから見える空間には鳥一匹すら飛んでいる様子もなく…寧ろ雲の流れもない。まるで時間が一切動いていないような、そんな感じがした。

 どうしたものかとぼんやり歩いていると、ふと一冊の本に目が行った。
周囲の本が気持ち悪いほどに茶色一色だというのに、その中にあって一際目立つ青とも緑ともいえぬ不思議な色を呈した一冊の本。背面のタイトルは掠れてしまって読めなかったが、いざ本を開いてみればそれは良く知っている物語だった。


「…、あぁ、四匹の竜の神話かぁ。懐かしいなぁ。」
 少年は小さく微笑んでぺらりとページを捲っていく。


――― それは昔昔のお話。
世界には四匹の竜が居て、彼らがこの世界を護っていました。
四匹の竜は

生命と地の護り、地竜のゼクス
破壊と再生の風護り、風竜のシトゥルム
智慧の水護り、水竜のスルス
力と権力の護り、火竜のデシエルト

と名乗り、長らく人々へ恩恵を与え、護り暮らしていました。
しかし次第に人は力を求め、そして戦争が起きてしまいました。

そして… ―――


「…あれ?コレなんかおかしくないか?」
「おかしいコトなど何もない。」
「え、いやでも…っ!えっ?」
突然後ろから話しかけられ、少年はビクリと背を震わせる。
幾ら本に夢中になって居たとはいえ、この静まった空間で人が近づいてくれば絶対に気づいていた筈なのに…。
其処に居たのは淡い桃色の髪に、見たことも無い民族衣装の様なものを纏った少女。やっとこの不思議な空間で人に会え、思わず気が抜けて話しかけようとする。しかしそれも少女の言葉に遮られる。
「お前どこから入ってきたのだ?」
「え?」
「だから、何処から入って来たかと聞いている。」
「え、いや…何ていうか。普通に道を歩いていたらいつの間にか此処に居たんだけど…。」
 
本当にいつの間にか。そう少年が告げると少女は一瞬訝しげな表情をしたかと思うと、そのままふいと視線を逸らしてしまった。
「この書架は外からは誰も入れはしない筈なのだが…。…ましてやお前は人間だろう?力を持たぬ筈の人間が入ることなど有り得はしないのだが…。」
「はぁ?そう云われてもなぁ。俺も解らないんだよ。道を歩いてたら突然こんなところに出ちゃうし…。此処は一体どこなんだ?」
「此処は空白の狭間。人間の云うところの異次元という場所だろうか。」
 さらりと告げられる事実に少年は一瞬ヒヤリとする。昔何処かで聞いたことが有る。死んだ人間は生きてる世界とは違う場所に行くのだと…。これはつまり俺は…。
「お、俺死んだの?」
「…?あぁ、別に此処は死後の世界とか云う奴ではない。時間と時間の間、と云うわけだ。それに死したものは此処に来ることが出来ぬ。安心がするが良い。」
少女がそう小さく笑うと少年もやっと安心したのか大きく一つ溜息を吐いて笑顔を見せた。
「しかし人間が迷い込んでくるなど初めてだな。」
「や、やっぱそれはまずい訳?直ぐに出ていかないとどうこうされちゃう!…とか?」
「まぁ、色々と有るが…まぁ。…お前は悪い人間ではなさそうだしな。それに偶然来てしまったとも云っていたしな。まぁ、今回は多めに見てやろう。」
「あ、ありがとう。あ、俺ニヒツ。ニヒツ・クレアーレっていうんだ。あんたは?」
「わっ…私か!?私は…ファートゥム、だ。」
 どうやら名前など聞かれないと思っていたのだろう、ニヒツの突然の行動とその笑みにファートゥムは気恥ずかしそうに云うと再びそっぽを向いてしまった。

「ところで…先程から何を熱心に読んでいるのだ?私が声を掛けるまですっかりその本に引き込まれているようだが。」
「あ、あぁ。この本だよ。…っていうかこの本おかしくないか?色々と昔読んできた話と違うんだけど?」
 そう云ってニヒツは手にしていた本を目の前へ差し出した。
 
そう、この本はとてもおかしいのだ。書き出しは一緒なのだが…話がどんどん進み、嘗ての人間と竜の戦の話になってくると自分が知っている話とは大きく違ってきているのだ。
ニヒツがそう云って差し出した本を一瞥すると、ファートゥムは何かを思い返すようにふむ。と言葉を漏らす。

「…あぁ、お前の生きる世界の且つての記録か。…そう云えば先の人間と竜の大戦からどれほど時間が経ったのかね?」
「うーん。大体五十年くらい?いや、それ以上?あんまり詳しく無いけどな。」
「…そうか、もうそんなに経ったのか。世の中の時間の流れと云うものはとても早いのだな。ついついこの前の事件だと思っていたものだが…。」
「はは、何だよそれ。そんな言い方して…まるで年寄りみたいな言い草だなぁ。」
「ふん。見た目は幼いがな、私も齢は幾千を数えるのだよ。残念ながらな。」
「げっ!」
 突然の告白に思わず驚いて変な声を上げてしまった。少女(?)は一瞬ギッと睨んできたが、直ぐにどうでも良くなったのか手に持っていた本を再びニヒツに返してきた。どうやら怒っていないらしい。とニヒツは内心ホッとした。

「お前、この本の何がおかしいと思った?」
「え?後半大体おかしいじゃないか。俺が知っているのは戦後、竜と人間は幸せに共存共栄しているっていう話なのに…。この本の内容は違うじゃないか。」
 そう、この本に書かれていたもの。それは…。
 
戦後確かに竜達は共存への道を徐々に歩み始めていた。しかし…人間はそうではなかった。人間は実際には共存とは程遠い行為を冒していたのだ…と。
「違う…か。そうだな。この本は人間が書いたものではないからな。お前は人間が書いた物語を読んで知っているのだろう?」
「あ、あぁ。」

 子供の頃よく読んでもらった過去のゼクスの歴史を知る上で重要だと云われていた本。自分だけじゃない。恐らく自分達と同じ世代の子供で有れば誰しもが一度はあの本を親から読み聞かされたり、学校の授業で聞いている程の有名な話。
それを読み聞かせた大人の誰もが“これは過去の歴史を解いた真実の物語”なのだと云った。だから、ニヒツ自身もそれこそが真実だと信じていたのだ。

「…先程お前が読んだもの。…これはな、一字一句あの時から今に至るまでに起きた真実を記したものだ。だからこその残酷で目も向けられぬような事実までもが書き記されているのだよ。…残念ながらお前が読んできたものはあくまで人間の手によって真実に手を加えたものでしかないのだよ。」
 それはつまり…。


「作り話、ってことか?」
「そうだ。全てが、と云う訳ではないが、部分的には作られているな。」

そう、力強くきっぱりと言い切るファートゥムの目は一点の曇りもなかった。
少年はその目に彼女の云う事こそが事実なのだと何故だか感じた。しかしそれはニヒツにとってはショック以外の何物でもなかった。
今までは人間と竜は互いに過去を悔み、共存出来ていると思っていた。しかし…真実は違った。完全なる共存などできてはいなかったのだ。
寧ろ、真実は何とも恐ろしいものだったのだ。がくりと膝を落とす少年に少女は一瞬悲しそうな表情を浮かべて、桃の髪を揺らしながら少年の肩に手を乗せる。
そして、こうポツリと呟いた。


「…時には知らない方が幸せな真実もあるのだ。」
と。
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Author:海和さい
竜と魔法の世界をつらつらとやっております。

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